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肩こりのあれこれ。打撲等の治療方法
井尻 慎一郎 先生
肩こりのあれこれ。打撲等の治療方法を教えてください。
いままで整形外科に関する、なんとなくわかっていても、あいまいなことに関して述べてきました。例えば、“肩こり”、“寝違え”、“冷湿布と温湿布”、“ぎっくり腰”などは整形外科の教科書にもほとんど記載されていません。指の関節がなぜ“ぽきっと”音がするのかもまだ解明されていないのです。“湿布を何時間くらい貼ればよいのか”もはっきりした解答はないようです。
そこで、それらの一部、ご紹介を井尻整形外科井尻 慎一郎先生に聞いてみました。
 
肩こりの原因

同じ姿勢で長い時間細かい仕事をしたりコンピューターに向かった後などに、首や肩甲骨のあたりに“おもだるい”、“つまる”、“張る”などと感じることがいわゆる肩こりです。自分の好きなことや趣味などをしているときはあまり感じません。また、肩こりを生まれてから一度も経験したことがない人もおられます。日本では肩こりに悩む人が多いのですが、日本以外の国では肩こりという病気は少ないようです。肩こりはまず、“頭や首を支えたり、上肢をぶら下げている筋肉の疲れである”という認識が大切です。そして同じ筋肉をあまり疲れさせないように、仕事中に時々息抜きをしたり、軽く首や肩の体操をしたり、トイレに行く、自分でお茶を入れるなど、テンションを変えるようにするとよいでしょう。背伸びをするだけでも結構楽になります。軽いマッサージもよいと思いますが、強い指圧などは筋肉を痛めるのでかえって次の日に痛むことがあります。首を動かして手の方にしびれが放散したり、頑固な痛みがあるときは首の神経が圧迫されていたり、心臓や胆嚢などの内臓疾患の可能性もありますので整形外科、あるいは内科の医師に相談してください。

肩関節周囲炎、五十肩は肩こり?

肩こりと五十肩(整形外科的には肩関節周囲炎といいます。)は違う病気です。五十肩は40~60歳代の人に多く、肩関節やその周囲の痛みと運動制限をきたします。たいていの場合、肩を上に挙げたり、後ろに回すと痛みが強くなります。さらに痛みは夜間、また肩を下にして寝たときに強くなることがあります。これは肩関節を構成している関節包、靭帯、腱や筋肉などに急性あるいは慢性の炎症が生じている状態です。治療としては適切な痛み止め(湿布、消炎鎮痛剤、注射など)を用いつつ、温熱療法(マイクロ波など)などを併用し、なによりも運動療法をすることが重要です。痛くない方の手や棒やロープ、壁を使って痛い方の肩を挙げるのを手伝い、痛くても少しずつ無理のない程度に動かしていくことが大切です。

寝違え

朝起きたときや、昼間でもちょっとしたことで首が痛くて回らなくなることがあります。まだこの原因はわかっていませんが、頚椎の椎間関節(ファセット)の捻挫、滑膜の嵌入や筋肉のこむら返り・炎症と考えられています。指圧はよくありません。多くの場合は数日で軽くなりますが、痛みが強い場合や1週間以上続く場合は、他の病気が潜んでいないか調べるため整形外科を受診してください。

ぎっくり腰(いわゆる急性腰痛症)

一般の方がよく使う言葉に“ぎっくり腰”があります。ドイツでは“魔女の一撃”というそうです。これは医学的な言葉ではなく、いろいろな原因による急性腰痛症のことを一般の人が“ぎっくり腰”と総称しているのです。この中には、腰椎の後方の関節である椎間関節(ファセット)の捻挫、滑膜の嵌入や腰椎椎間板ヘルニア、場合によっては圧迫骨折なども含まれています。原因がわかればそれに応じた治療を行いますが、最初は原因がわからないことも多く、とりあえず痛みを軽減する必要があります。消炎鎮痛剤の使用や、腰部の筋肉内へのブロック注射や椎間関節のブロック、コルセットや温熱療法などでまず痛みを少しでも軽減し、その後原因を探し治療をしますが、とりあえず痛みが治まればそのままになっていることが多いと思われます。

打撲・捻挫・肉離れ(筋肉の不全断裂)などに対して冷やすか温めるか、冷湿布か温湿布か?

まず冷やすか暖めるかです。受傷後すぐの急性期の場合(腫れや熱感、痛みが強い状態)は冷やす方がよいのですが、冷やしすぎて凍傷にならないようにしましょう。またその夜はお風呂で温めたり、酒を飲むと血行がよくなりすぎて、外傷部の充血や出血が増悪するので控えましょう。しかし、受傷後2~3日後以降は温めて血行をよくする方がよいです。一般的にお風呂に入ってズキズキ痛むときはまだ急性期です。お風呂に入ると気持ちがよいときはすでに慢性の状態で暖めるのがよいのです。
冷湿布と温湿布についてですが、冷湿布という名前は誤解を生んでいます。多くの人が病・医院でもらう冷湿布と呼んでいる湿布は、その袋に“経皮吸収型鎮痛消炎剤”と書いてあり、どこにも“冷湿布”とは書いてありません。消炎鎮痛剤そのものには清涼感などがないために、メンソールなどが含まれていて、ひやっと気持ちよく感じるように工夫されているのです。冷やすわけではなく、炎症を抑えて、熱い状態を元に戻すのです。このタイプの湿布は消炎鎮痛剤として急性期の冷やすときと慢性期の温めるときの両方に使えます。温湿布は血管を広げて温熱効果があるタイプで確かに“温湿布”なので、慢性期にのみ使ってください。慢性期にどちらのタイプの湿布を使うかはその人の好みです。当院では温湿布は比較的に消炎鎮痛効果が少なくてかぶれやすいと思うので、患者さんの要望があるときだけ処方しています。

リハビリテーション(リハビリ)

リハビリテーションという言葉の日本語訳はないようですが、本来リハビリとは障害の生じた機能を回復するだけではなく、精神的にも元の状態に回復する(全人格的に回復する)ことを目標とする奥の深い分野です。整形外科のリハビリと聞いて“電気”“牽引”などの言葉をイメージする方が多いと思います。もちろん、それらの療法もリハビリの重要な要素ですが、ここでは整形外科のリハビリの中で特に重要な運動療法について少し述べさせていただきます。
 いろいろな整形外科の外傷や病気の治療のなかで、きっちりとリハビリ、特に運動療法をしていない、指導されていない患者さんがしばしば見られます。特に整形外科の疾患は運動器の障害であることが多く、運動療法で機能を回復することが大切です。人工膝関節の手術を受けたが術後の運動療法が不十分で関節が固く、痛みが強く残っていたり、骨折でギプス固定や手術の後にのんびり骨がつくのを待っていて、手や足の関節が拘縮し、動かすと痛みが強いなど、さまざまな方がおられます。病気の種類や患者さんの状態により一概にはいえませんが、運動療法などのリハビリは必要な安静期間の後、適切な時期に開始し、徐々にペースを増やしていく必要があります。骨折後半年から1年を経過しているのに手や足が痛くて日常生活に不便な方が時々来院されます。レントゲンでは骨折は治癒しているのに骨萎縮や筋萎縮が強く、痛みに過敏な状態が続いていたりします。これはリハビリがうまくできていないことが原因であることが多いのです。患者さんは手足を動かしてよいのか、またどのくらい体重をかけてもよいのかわからない。痛みが強くて動かすのが怖い。医師も適切な鎮痛処置を施しつつ運動療法をするべきときに指導していない。体重をかけてはいけない時期と逆にかけるべき時期の指示をしていない。そのようなまま時間が経って悪循環に陥ることがあるのです。捻挫や突き指や打撲(特に肩の場合など)でもそれなりに運動療法が必要です。さらに変形性膝関節症や腰痛や肩関節周囲炎(五十肩)などの慢性疾患でも運動療法は大切です。筋力を増やし、関節の動きをよくし、そして痛みを柔らげるためには温めるだけでなく動かすことが大切なのです。
 整形外科の病気になったときは主治医に相談しながら自ら能動的に積極的にリハビリをしてください。“動かすしかない”“体操するしかない”と考えずに“運動療法をすることで治すのだ”とポジティブに頑張ってください。